Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  “ランチはいかが?”
 


 今年も猛暑酷暑の夏となって。それでもお元気だったのが、スポーツに携わる学生さんやら選手やら。真夏の祭典、高校野球にインターハイに。大阪にての開催となった世界陸上、北京五輪をゴールにしてのサッカーや体操などなど各種スポーツの予選も催され。そうして迎えた秋は、それこそもっともっと多くのスポーツの本大会が犇めき合う、スポーツシーズンの真っ只中で。

  「一部二部は、九月入ってすぐにも試合があったんだものな。」

 他のシリーズでも触れたことではございますが、大学アメフトは、一部二部三部とエリアという4つのリーグに分かれており、あと、医科歯科大だけのリーグもある。…何で分けられているのでしょうかね。医学部というと、専門学科学習の後に実習にあたるインターンもこなしての、留年せずとも8年くらいは在学するのが当然という特殊な学校だからなのか。それとも…いきなり“臨時解剖”なんてな依頼が入っての予定が狂いまくる学部だからか。そこのところは調べておりませんので悪しからず。一部二部は、その中で更にAブロックとBブロックに分かれており、試合数は七節。一部はそれぞれのブロックの1位チームがクラッシュゲームで優勝を競い合い、その勝者がお正月に甲子園でのライスボウルにて、関西代表と戦って日本一を目指す。三部とエリアはそこまでのチーム数もなく、五節のリーグ戦をこなし、首位に立ったら上のリーグの最下位チームとの入れ替え戦に臨む訳で、
「いきなり1日ってのはキツかったことだろな。」
 思い返せば高校時代だって、毎週末にセッティングされていた試合のペースといい、秋の方こそが全国大会につながる“本戦”だったことといい、似たようなものだったのではあるものの。この暑いのにご苦労さんだなんて言いたげなコメントが、ついつい出てしまうのは…あんたらもう“ロートル”モードですか?
「うっせぇよ。」
「モノホンのおばさんには言われたかねぇな。」
 言ったわね。試合の描写がもしもあっても、あんたら絶対カッコよく書いてやんない…などという、しょむない行数稼ぎはともかく。
(苦笑)

 「三部とはいえ、ちょっと気張りゃあ入れ替え戦へと届く順位なんだ。」

 せっかく前主将だった斗影さんの世代が死守したランク。落とすなんて以っての外の、上しか見ないぞ、新生フリルドリザードと。春のリーグ戦の段階からもなかなかの怪気炎を吐きながらの、好ゲームをこなして来たお陰様。関係筋やら取材記者の方々からも、ダークホースと期待されてのいよいよの本番。チームを固める面子にも、真剣本気のフットボウラーしかいない。なにせあの、賊徒学園高等部からの進学者が大半を占める大学の、アメフト部はそのまんまの持ち上がりも等しい顔触れで埋まっており。しかもしかもここが違うのが、上級生もいるということ。高等部時代の賊学アメフト部はと言えば、葉柱斗影の弟・ルイ君が、親や兄貴の七光、他人様の威光を背負うなんざ真っ平との意志の下。新一年生にさえなっていない段階の、中坊と高校生との狭間だった春休みの内に。喧嘩の上での頂点にいたクチを片っ端から沈めて回っての制覇を果たしたという、史上最強の下克上を成し遂げたその上で。もはや愚連隊の溜まり場でしかなかったアメフト部の大掃除をし、トレーニングに打ち込めない先輩陣には丁重に撤退していただいたという、列伝ぽい経緯があったりし。

  ―― その時の小生意気な顔触れが、
      まんま進学して来ることが、判っていたにも関わらず。

 それでも居残っていた先輩たちのその中で、夏休みの合宿にも参加なさっての頑張った顔触れがいる。実を言えば…高等部時代にしてみても、アメフトをするためだけに居残りたかったのだけれど。とはいえ、あんな年下に牛耳られててどうするよと憤慨しまくっていた仲間たちの手前もあって、本心隠して退部して。無為に過ごした残りの2年が、どれほど下らなかったことか。見栄じゃ面子じゃ言ってらんねぇ、やりたいことやって何が悪いかと、遅ればせながらも決意を固めての、居残ってくださった彼らはというと。さすが年上で覚悟も違うせいだろか、馬力も持久力もずんと上であり、
『こりゃあ思わぬところからの掘り出しもんじゃんかvv』
 金髪の小さな鬼コーチ殿が欣喜雀躍、小躍りして喜んだそうで。そして、

 『あの坊主が実は謎の鬼コーチXだって噂はホントだったんだな。』

 先輩たちの側でも、こっちの面子には今更ながらの事実へと、時間差で驚いてくださっていたのだけれど。
(笑)

 「俺らの第一節は22日と遅いめではあるが、それは対戦チームも同じこと。
  集中を途切らせねぇよう、余計なことしてバテぬよう、各々で注意を怠るな。」
 「押忍っ!」

 この週末と来週は、世間様では3連休で、大学の方でも講義はその殆どが休みになる。それを幸いにと、明日からの3連休の方で“ミニ合宿”を設けての最終調整をはかるぞと、今や主将とチームリーダーを兼任している葉柱へ、決定事項だちゃんと伝えとけと、やっぱり偉そうに言い置いた、小さな鬼コーチさんはというと、

 “…あーあ。”

 陽避けのパラソルの下、坊や本人が持ち込んだ“簡易冷風扇”とやらを枕に、ベンチに寝そべってのくうくうと、心地よさそな寝息を立てていらっしゃり。

 “熱中症になったらどうすんだ、まったくよ。”

 彼の通う小学校はまだ短縮授業だからと、昼にはもうこの構内へと訪れていた妖一坊や。夏休みの間の、合宿に彼らが出向いていた間に、くじ運のいい誰かさんが懸賞で引き当てたそのまま設置したという最新型のエアコンを。心地いい健康モードでひんやりとかけての、お兄さんたちのお越しを待っていたおチビさん。つややかな絹糸のような金の髪に、細い指先、しなやかな腕に脚。正に出来のいい高級なビスクドールもかくやという、白面痩躯の繊細美麗な風貌でありながら、

 『くぉらっ、そこのへっぴり腰の糞ランニングバック!
  パスが通るのをちんたら待っててどうするっ。
  とっとと自己判断でライン沿いに駆け上がらんかっ!』

 口の悪さは天下一品だし。この小ささでありながら、そしてそして客人という立場でありながら、なのに…チーム内で最強の地位にいる恐ろしい存在であり。

 「…。」

 基礎のサートレや、ポジション別のシフト練習あたりならともかく、試合形式のセット練習には、さすがにフィールド外からの口が出せないからだろか。不意に大人しくなってしまった彼であり、

 『暑いなら部室へ帰ってな。』

 誰かさんが懸賞で当てて下さったエアコンで涼んでなと、いやさ、本心から心配して葉柱が直々に言ったのに。うっせぇなという一瞥をくれただけ、ベンチへ居残っていてのこの始末。ヘルメットやグローブやはマネージャーに任せての手ぶらなまんま、しょうがねぇなと歩みを運び、くったりと正体なくして寝入っている小さな肢体を見下ろせば、

 “…お?”

 その小さな手からすべり落ちそうになっていたのが、超小型のモバイル端末。いつも葉柱たちのデータをタッチペンで書き込んでいるアレである。スイッチが入ったまんまの、バックライトの画面を見やれば。今日の練習でこなされたフォーメイションごとの、各選手別の癖やらプレイの成功率やら、それは細かく記されてあり。

 “成程ねぇ。”

 実際にピッチに立つのはあくまでも彼らだから、フィールドの外にしか身をおけず、連係の勘とか手ごたえというものは、どうやったって判らない坊やであり。それでも何か参考になるものはと見回して、きっちり準備しといてくれたらしい。
「………。」
 ベンチの脇へ そおと屈んで。幼い寝顔を覗き込む。不自然な汗をかいてるようでもないし、呼吸も正常。このまま聞いてると釣られてこっちも眠ってしまいそうなほど、それは安らかな午睡の最中であるらしく。起こしてしまったらその時はその時と、青い地に色んな青や紺にて雲やヤシの木がポップに描かれたオーバーシャツの背中の下へ、長い腕をば差し入れて。よいせと引けば、軽い痩躯が難なく持ち上がる。どれほどのこと生意気でも、どれほど手練れな策をばかり、いっぱい頭に詰め込んでいても。こうやって軽々と抱えてしまえる、小さな小さな坊や。色んなことがこの身へ押し寄せても、たじろぎもしないで胸を張ってる肝の太さは、

 “確かに…見習うべきだよな。”

 なんてな感心を向けての見下ろせば。坊やには余裕ありすぎの広い懐ろに収まって、うにむにと口元を動かす様子が何とも稚いものだから。くすすと苦笑し、ゆっくりとその歩みを運び始める葉柱で。まだまだ盛夏の名残りが濃かった、炎暑の真昼も過ぎ去って。傾きかかった西陽の中を、校舎棟の間近へと近づけば。草むらの中で秋の虫らが、ころろころろと幼い声での鳴き始めていたりもし。なかなかに風情あふれる、秋の夕暮れだったりするのである。





  ◇  ◇  ◇



 ところで。大学生となった葉柱が、いよいよ不規則な時間割をこなす身となったのと打って変わって。妖一坊やは四年生になってのいよいよと、五限六限まである曜日だらけの時間割と向かい合って来たのだが。二学期の頭はさすがに短縮授業が半月ほど続く。しかも3連休が二回もある。これをば堪能しなくてどうするかと、九月に入ってからは、その午後の殆どを賊大にまっしぐらという帰宅コースで通していた、寄り道し放題の…言ってみりゃ悪い子であり。とはいえ、

 「そこんところが、最初のうちはホンットに不思議だったんだがな。」

 賊徒大学は、高等部よりもちとばかり、小学校から遠くなる。これまで通り、葉柱を呼んでもバスを使っても、こっちへ到着するには1時間近くは軽くかかってしまうはずだのに、1時を回らずお昼の部室にちょーんと先乗り出来てる周到さといい、
『今日のは、ヒレカツサンドに薄焼き玉子で巻いたキュウリとツナのサラダ巻きと、カニかまとスパゲティのミモザサラダと、トマトの冷製ガスパチョスープだvv』
 大きめのバスケットへと満載にした…残念ながら全員の腹を一杯には出来ないものの、1つずつくらいならお味見出来るほどもの、たいそうなお昼ご飯を抱えて来ているのが、どうしても不思議で不思議で仕方がなかった葉柱で。
「歯医者が送って来たんなら、俺に厭味の一つも言ってから帰るだろうし。大工の兄ちゃんだったなら、毎日なんてのは無理な話だろうしよ。」
 それに、毎日持参の昼飯の見事さというのも謎ではあって。
「お母さんは、まだ勤めを辞めてないんだろ?」
「おお。」
 もともとからして“収入目的”のお勤めじゃあなかった。坊やが学校に出掛けている間、家に独りで居るのも何だからと。無聊を埋めるのに始めたようなものなので、旦那様が家へ戻ったからというのは、辞める理由にはならなんだそうで。となると、あのお料理上手な母上の手になるものとも思われない。物によってはいかにも出来立てという料理がふんだんにあるからで、

 「…まさか。」
 「まさか?」

 やっと気づいたの? と言わんばかり、葉柱の様子へ うくくと楽しそうに笑った坊や。今日はエビチリとカニチャーハン、ぷりぷりの米粉シュウマイせいろ蒸しに、牛そぼろの甘煮レタス包みという、中華風のお弁当を持って来ていた彼であり。これらを朝作っての小学校経由で持ち込んだなんて、どこの誰が信じてくれようか。

 「信じがたいが…あの親父さんが作ったってか?」
 「ぴんぽ〜ん♪」

 あははと足をばたつかせまでしての大笑い。だって誰もが同じ反応をするのだもの。
「そんなおかしいかな、父ちゃんが料理するのって。」
 料理って結構腕力が要るからさ、そいで板前さんとかコックさんには男が多いんだぜ? いや、それは判ってるけどな。
「あの、親父さんだからよ。」
 何たって、見た目があのその何だ。お前をそのまま二十代後半にしたような、お作法は完璧で、蘊蓄も山ほど知っていようが、フライパンだの包丁だのは握ったことなんてありませんてな見栄えの人だったしよ。そんな言いようをする葉柱へ、
「なに言ってるかな。」
 これはさすがに呆れた坊やで、
「父ちゃん、あれで資格をたっくさん持ってるからな。」
 タクシーの運ちゃんとか、ガソリンスタンドの管理とか。行政証書を書いたり公証人やったりも出来るし、保育士とか調理士の免状も持ってるし。

 それに、俺だって料理くらいは作れんぞ?

 「第一、今日の…。////////
 「いやいや、作れるのは知ってるが。」

 確かに絶品チャーハンとラーメンを作っていただいた覚えはあるが、それにしたってここ数日のお昼を、まさかに作ってはいなかろと。紡ぎかけてた声が、一瞬、立ち止まる。

 「今日の?」
 「〜〜〜何でもねぇ。///////

 嘘をつけ、何か言いかけた。言ってねぇもん。言ったね。
「そうか、何かどれかはお前が作ったんだな?」
「〜〜〜〜〜。////////
 そうとも違うとも言えないらしく、そんな態度が“そうだ”と言っているようなもの。えっと、何がそれらしかったかなと、思い出してはみるものの、
「やべ。どれも“美味かった”しか覚えてねぇ。」
「…あのな。」
 シャワーを浴びての、まだ濡れてる髪にかぶってたタオル。ロッカールームの低いめのベンチに腰掛けてた葉柱だったのをいいことに、後ろから引っつかんでのわしゃわしゃと掻き回せば、
「いたた…☆ こら辞めないか。」
 なんだ、当ててほしいのかよ。知らねぇもん。つーんとそっぽを向いた横顔は、何というのか、

 “彼氏とやらを振り回す、立派な“カノ女”もどきじゃねぇかよな。”

 くすすと笑い返しての、大きな手櫛で前髪を一気に後ろへと流し梳く葉柱へ、
「だから…。///////
 まだ判んね? う〜ん、チャーハンかなと思ったんだが、あれは皆に行き渡ったほど結構多かったからよ。うん、あれは俺じゃねぇ。

 “そんなして消去法でいったら、あっと言う間に答えが出ちまうもんだが。”
 “つか、皆もいるって覚えているんだろか。”
 “ないない、それは既にないって。”

 衆目の中も同然だってのに、片やはベンチに腰掛けた主将殿の、そのお膝…というか腿の上。よいせとまたがっての向かい合い、さっきからの“ああだ・こうだ”を展開しているお二人さんで。

 “お前ら、これを3年もよく見て来れたなぁ。”
 “いやもう慣れました。”

 とはいえ。坊主が大きくなって来て、ちみちゃい子供をあやす図だったのが、どんどんと妖しくなって来たのへは。それと気づいてからの慣れるまで、相当かかったもんですがと。無敵で小生意気だった彼らも彼らなりに苦衷を抱えていたのだと、思い知らされた先輩たちが、心からの同情を寄せたのは言うまでもなかったりし。こうやって新たにチームワークというものが結束固く結ばれようとは、鬼コーチ殿にも想定外の思わぬ効果だったりするのであった。(苦笑)





  〜どさくさ・どっとはらい〜  07.9.14.


  *ウチの妖一坊やのお父さんは実は、
   お母さんがお外へ働きに出ているのならと、
   昼間の間の家事全般を受け持っていたりします。
   なので、坊やからのリクエストに応じての、
   豪華なお弁当も作れますし、
   送り迎えの車の運転も、某スピード狂の運ちゃんもどきでかっ飛ばして、
   予定の時間へ間に合わせるなんて軽い軽い。
(苦笑)
   そういうお話もいつか書きたいもんですね。

  *ところで、本誌で蛭魔さんの小学生時代とか出たそうで。
   ビジネスホテル住まいの中坊時代とか、お父さんがムショ暮らしとか?
   どこまでがホントなのでしょか。
   微妙にウチとも重なってる気がして、怖い怖いです。

   「くぉら、俺はムショには…。」
   「入ってたんだよね、作戦のうちとは言え。」
   「う…。」

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